「自分の文化を知らないまま世界に飛び出すのは違うんじゃないかな、と思ったんです。」
そう語るのは、着付けの世界チャンピオン、Aiさん。彼女が歩んできたのは、海外への憧れと日本の伝統文化という2つの軸が交差するユニークな道のり。その先に見据えるのは、着物を通じて日本と世界をつなぐ未来の形でした。
海外への憧れがくれた「気づき」
―着付けを始めたきっかけを教えてください。
「私の家族はみんな着物に触れていて、母や祖母、それに叔母たちもみんな着付けをしていたんです。子どもの頃からその環境にいたので、なんとなく『自分もいつかやるのかな』と思っていました。でも、学生の頃はそれよりも海外に夢中でしたね。」
Aiさんが初めて海外の文化に触れたのは高校時代。ニュージーランドへの短期留学がきっかけで、異文化の魅力に夢中になりました。
「ホームステイ先のホストファミリーが本当に素敵で、彼らのオープンでフレンドリーな性格に衝撃を受けました。自分の気持ちを英語で伝えたい、もっと深く関わりたい、そう思ったのが英語を本気で学ぶきっかけでした。」
その後、フランス語にも挑戦し、フランスへの留学も経験。多文化に触れる中で、自分のルーツである日本文化の存在が心の中で大きくなっていったと語ります。
「海外の人たちに『日本の文化ってどんな感じ?』と聞かれることがよくあったんですが、そのたびに答えに詰まってしまって…。それがすごく悔しくて、『もっと自分の文化を学ばなきゃ』って思ったんです。」
着付けと出会い直す
「学生時代は海外、社会人になってからは仕事。着物に向き合う時間なんてなかった」というAiさん。しかし、ある時体調を崩し、少し立ち止まる時間ができたことで、新たな扉が開かれました。
「その時に母から『着付けでもやってみたら?』って言われて。最初は気分転換のつもりだったんですけど、やり始めたらどんどんのめり込んでいきました。」
さらに、母や叔母がコンテストに出ていたので、Aiさんも最初から『大会に挑戦する』という気持ちで始めたそう。着付けを「競技」として真剣に取り組むようになります。
「着付けって、ただ綺麗に着せるだけじゃないんです。コンテストでは全工程を4分以内に仕上げるとか、想像以上にハードなスポーツみたいな世界でした。全身の筋肉を使うので、練習が終わる頃にはヘトヘト。でも、そんな厳しさが面白くて。」
彼女の努力は実り、ついに世界大会(留袖の部)で優勝。そこには、努力を続ける強い意志と、家族からの応援がありました。
着物を世界遺産に
そんなAiさんが今掲げている目標は、着物を「世界遺産」にすること。
世界チャンピオンとして活動する中で、Aiさんは全国各地を訪れ、地域で日本の伝統文化を守り続けている職人たちと直接対話を重ねてきました。
「職人さんたちは本当にすごいです。一つの技を何十年もかけて磨き上げているその姿勢には、毎回感動しますし、たくさんの刺激をもらいます。」
また、影響力のある政界人や著名人と接する機会も多く、そのたびに日本文化の重みや可能性を改めて実感するといいます。
「首相官邸での表敬訪問で岸田総理とお話しした時に、『着物文化を世界に広げるあなたの活動は素晴らしい』と声をかけていただいたんです。その瞬間、自分がやっていることに対する自信と責任が一層強まりましたね。」
「着物は日本の伝統文化の象徴です。でも、国内だけでなく、もっと世界の人々にその魅力を知ってもらいたい。例えば、着物を着ることで感じられる独特の所作や美しさって、世界中の人にとっても特別な体験になると思うんです。」
未来に向けて、彼女は着物文化をさらに発展させるための活動を続けています。
「着物を世界遺産にすることが、私にとって次の挑戦です。そのためにも、まずは多くの人に気軽に着物を体験してもらえるような場を作っていきたいと思っています。」
彼女の情熱は、着物という枠を超え、日本と世界を繋ぐ大きな架け橋となりそうです。
EDIT=BROADMOOR編集部
SPECIAL THANKS=Ai