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2024.03.26

【インタビュー】移り変わる空を繊細なグラデーションで描く

BROADMOORで個展「ゆめをみる」を公開中の油彩画家、根ノ木あさみさん。土地が持つ空気感と、人の持つ感情の掛け算によって、現実を越えた鮮やかな景色をキャンバスに描き出す。彼女の持つ世界観と絵に対する想いについて話を聞きました。

経歴をお伺いしてもいいですか。

祖父が絵描きだったので、その影響でわたしも絵を描き始めました。油彩を始めてからは10年と少し経ちます。独学で身につけた技法です。

【実際の景色を見た時に描きたいと思う】or【描きたい時に景色の写真を見て描く】どちらですか?

基本的には前者の、綺麗な景色を見て、「あ、これを残したいな。」と思って描くことがほとんどですね。

この景色を残すことで感動をシェアしたいという気持ちから来るものですか?

シェアしたいというより、わたしがその空間をそのまま残したいという方が強いです。
写真では残せないものがとても多いと思っていて。例えばその土地の空気とか、匂いとか、温度とか。そういう生きた感覚が、絵なら残せる気がするんです。同時に、絵の前に立った人にも同じ温度でその感覚を伝えられる気がしています。

空気って、目に見えないじゃないですか。それを絵に起こすってどういう感覚なんでしょう。

その時感じていたものとか、自分の感情とか、その土地の空気みたいなものを思い出して筆を取ると、自然とその場所の匂いが乗った絵になります。
わたしの絵って、目の前にある風景をそのまま描いたものではないんです。

目に見えている景色をそのまま忠実に描くのであれば、それはもう写真で良いのではと思っています。目の前にある、生きた世界を感じるから、人は美しい景色を見たとき感動するんです。その空間を、絵を前にした人の周りに作り出したいと思っています。

ちなみに、私はもともと土地の歴史を勉強をするのが好きなので、旅行に行くと必ず本屋に行って歴史書を買い、その土地の歴史や文化を学んで帰ってきます。一番良いのは地元の方からお話を伺うことです。その土地がどのような歴史を経て今の文化になっているか、それを知るだけで目の前の景色の解像度がぐんと上がります。

そういう知識や感覚を混ぜ合わせて、わたしは一つの風景を作り出しています。

不思議な気持ちになるカラーリングは、見ていただく方に土地の背景も伝えたいという気持ちからくる独創性なのでしょうか。

その土地の詳細をみんなに知って欲しい!という思いはあまりありません。基本的に、タイトルにも土地の名前は入れません。

情報として知ることのできる知識よりも、その土地の風景をまるで今実際に見ているかのような感覚、を大切にしたいからです。美しい風景、こんな景色が観れるのはどこなんだろう、その流れで土地の文化を知っていただく。この流れが理想だなと思っています。


たまに、わたしの絵の前で泣いてくださる方がいらっしゃるんです。わたしも美しい景色を見て感動して泣くことがあるので、きっと同じような感情を持ってくれているんだろうなと、とても嬉しくなります。

自分と同じ感情が、絵を見ている人にも伝わっているんですね。

そうですね。もちろん考えていることは全然違うと思います。全く別の土地を思い出しているのかもしれないし、わたしには知り得ない記憶を呼び起こしているのかもしれない。思い出は異なっていても、同じような感覚を体験してくれているのであれば嬉しいなと思っています。

景色を見ている時って、頭の整理ができる気がするんです。例えばスマホで動画を見ているとき、今まであったことを考えたりはしませんよね。日常にはインプットされる時間が多すぎて、頭の中を整理する時間があまりありません。普段の日常の中で考える隙間のなかった「何か」を考える、そういう時間を過ごしてほしいなと思っています。

根ノ木さんが今まで見た空の中で1番感動した空は、どのような空でしたか。

最近だと、石垣島から東京へ戻るときに飛行機の上から見た風景が印象的でした。本当に綺麗で、この感動を文章に残したいなと思い、筆をとったくらい。Noteに公開しています。

【脳の感動、五感の感動】

筆を取る前に心の準備をされるというお話を伺いましたが、どんな準備をされているんですか。

今なら描けるというタイミングで描かないと、納得のできる絵が描けないんです。今ちょっと描けなさそう、という時は、描かないようにしています。その「描けそう」な心を作るのに、少し時間がかかります。その準備をしています。


逆に乗っている時は1日に数枚描き始めたりもします。外部から集中を遮断されないようにスマホの電源を切って、水もほとんど飲みません。水を飲むという行為すらも集中を途切れさせる一因になるんです。

それって無心に近いんですか。描いている時は。

それに近いと思います。もしこれが他の勉強とかだったら、わたしは到底無理です。15分で飽きちゃう。(笑)ずっと同じことをこんな風にできるのは絵だけです。

それだけ集中できるものがあるってだけで、すごいですね。素敵。

誰かが、「瞑想と一緒だね」と言っていて、「確かにそうかも」って思ったことがありますね。無にして集中してストレスがなくなるみたいな。

展示会とかで近くで見ると筆のタッチであったり、優しさであったり、やっぱり画像とは全然違いますよね。

肉眼で見ないと分からないと思います。私が風景を見た時に、「写真を撮っても伝わらない」と思うのと同じように、「私が描いている絵の雰囲気は、写真だと伝わらない」という同じ現象が起こっている。絵の大きさや筆のタッチなどは、画面上の小さい画像ではやっぱり分からない。だから是非原画で見てほしいですね。

< PROFILE >

根ノ木あさみ 1991年 愛知県生まれ。
都内を中心に、個展・グループ展・ライブペイントイベントなど、幅広い活動を行う。

EDIT=BROADMOOR編集部 

SPECIAL THANKS=根ノ木あさみ

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